親父に会ってきた。
残り一ヶ月と言われた。
28日のうち、もう7日が終わっていた。
数字にすると、急に時間が見えてしまう。
見えたところで、何ができるのかはわからない。
昨日会った親父は、かなりだるそうだった。
介護ベッドで寝ていた。
体がうまく動かせないみたいだった。
Tシャツを脱がせて、服を着せてあげた。
つい先週まで、ひとりでゲームセンターに行っていた。
競馬ゲームをやっていた。
それが、こんなにも変わってしまうのかと思った。
びっくりした。
何を話せばいいのかわからなかった
まだ喋れる。
でも、相当痛いみたいだった。
もともと、よく話す人ではない。
それが、さらに話さない感じになっていた。
こっちも、何を話せばいいのかわからなかった。
重い話をしたいわけじゃない。
でも、何も言わないのも違う。
「大丈夫?」と聞いても、大丈夫なわけがない。
「痛い?」と聞いても、痛いに決まっている。
食べたいものを聞いても、ほとんど食べられない。
梨が食べたいと言っていたけど、いまは5月だ。
7月になれば、梨が出てくる。
そこまでいけたらいいのになと思った。
笑わせようとした
何ができるかわからなかった。
だから、おちゃらけた。
少し笑いを取りにいった。
笑顔だけでも見たいなと思った。
ちゃんとしたことを言おうとすると、たぶん言えない。
いい話をしようとすると、重くなる。
だから、少しだけいつもの感じに戻したかった。
重い時間の中に、少しだけくだらない時間を入れたかった。
それが正しいのかはわからない。
でも、自分にはそれくらいしか思いつかなかった。
来たよを届ける
会いに行く前は、何かしなきゃと思っていた。
でも、行ってみると、できることは小さかった。
服を直す。
布団を直す。
水がいるか聞く。
寒くないか見る。
姿勢がつらくないか見る。
それくらいだった。
でも、たぶんそれでいい。
「来たよ」を届ける。
そばにいる。
少し笑わせる。
それだけでも、何もできないわけではない。
また来週も行くよ
帰るときに、来週も行くよと伝えた。
それを言えてよかった。
次に会うころには、残り14日になっているのかもしれない。
そこは想像したくない。
残りの日数を全部背負うのは無理だ。
だから、次の一回だけ考える。
また会いに行く。
また「来たよ」と言う。
梨、まだ売ってないからさ。
そこまでは待ってよ。
そんなふうに、少しだけふざけて言えたらいい。
時間は有限なんだ。
それを昨日、かなり近いところで見た。
でも、いま自分にできることは、大きなことではなかった。
会いに行く。
服を直す。
少し笑わせる。
また来ると伝える。
それくらいだった。
それくらいで、十分なのかもしれない。