AIの「Reasoning」は魔法のスイッチではない —— 嘘つくAIと雑なプロンプトの、本当の問題

X(旧Twitter)で先日、興味深いやりとりが流れてきました。

「ChatGPTは正確だ」
「いや、平気で嘘をつく」
「そのプロンプトはどうなってる?」
「Reasoning(推論)は?」

表面上は「どのAIモデルが優秀か」という議論に見えますが、中身を紐解くと、ほとんどが「プロンプト設計の甘さ」と「Reasoningへの理解不足」に起因するすれ違いです。

今回は、このやりとりから見える誤解を整理し、「AIに嘘をつかせないためのReasoning設計」について解説します。

そもそも、AIにおける「Reasoning」とは何か

エンジニアやAIに詳しい人が「Reasoningしてる?」と聞くとき、それは単に「よく考えてる?」という意味ではありません。具体的には以下の3点を含んでいます。

  1. タスクを分解し、ステップを踏んで考えさせているか いきなり結論を求めず、「問題の整理→情報の取捨選択→仮説→検証→結論」という思考の階段をプロンプトで設計しているか。
  2. Reasoningに適したモードやモデルを前提にしているか 最近のモデルには、時間をかけて論理的に考えることに特化したもの(OpenAIのo1シリーズなど)があります。「Reasoningは?」という問いは、「そもそもそういう道具を使っているか?」という確認でもあります。
  3. 「わからない」を許容する設計になっているか 推論とは、わかる範囲とわからない範囲を切り分ける作業です。「無理やり埋めさせない」ガードレール(制約)の設計が含まれます。

つまり、ReasoningはAIの賢さを上げる魔法のスイッチではなく、「どう考えさせるか」を人間側が設計する行為そのものです。

まずはサンプル:議論の元になった「ズレている」アプローチ

今回の議論で「これで指示しているのに嘘をつく」と提示されがちなプロンプトの例を見てみましょう。

【よくある「姿勢だけ」のプロンプト例】

あなたは専門家として、事実に基づき推測ではなく根拠のある回答をしてください。 不明確な点は勝手に補わず、「情報が不足している」と明記してください。 誤解のないように、結論 → 理由 → 必要なら例 の順で簡潔に答えてください。

(この後に質問文が続く)

一見、まともな指示に見えます。「事実に基づいて」「専門家として」と書かれているからです。しかし、Reasoningの観点から見ると、これは不十分です。

どこが「これは違うよ」なのか

上記のプロンプトには、決定的な欠陥が3つあります。

1. 「思考の手順」ではなく「出力の型」しか指定していない

「結論 → 理由 → 例」というのは、あくまでアウトプットのフォーマットです。「どうやってその結論に至るか」というインプットの処理プロセスが指定されていません。これでは、AIは「専門家っぽい口調(姿勢)」で、ハルシネーション(もっともらしい嘘)を出力するリスクが残ります。

2. 「事実」の定義とソースが曖昧

Web検索をして裏取りをするのか、学習済みの知識だけで答えるのかを指定せずに「事実だけで答えろ」と言うのは、AIにとって無茶振りです。特に学習データにない最新情報やニッチな話題についてこれを行うと、AIは「指示を守るために、記憶の断片をつなぎ合わせて嘘をつく」という挙動に出やすくなります。

3. 具体的なコンテキスト(文脈)の欠如

このプロンプト単体では「何について」話すのかが決まっていません。テーマや粒度(専門家向けか、子供向けかなど)をセットで設計しない限り、Reasoningの深さをAIが決定できません。

この状態で「AIはすぐ嘘をつく」と嘆くのは、レシピを渡さずに「一流シェフとして美味いものを作れ」と命じ、出てきた料理に文句を言っている状態に近いのです。

こうするといい:Reasoningを前提にしたプロンプト設計

では、どうすればReasoningを「させている」状態になるのでしょうか。姿勢ではなく「プロセス」を指定するプロンプトへの書き換え例を紹介します。

ステップ1:テーマと目的を固定する

まず、何のためにその答えが必要なのかを定義します。

テーマ: サッカーの戦術史(2010年代) 目的: 初心者が“事実ベースで誤解なく概要を理解する”こと

ステップ2:思考のプロセス(Reasoning)を記述する

ここが最重要です。AIに役割を与えるだけでなく、処理の手順を与えます。

【Reasoningを組み込んだプロンプト例】

  1. 情報の抽出: 質問文からキーワード、時代、対象チームなどの条件を抜き出す。
  2. 事実の検証: 現時点で確実な事実と、議論が分かれる解釈を明確に区別してリストアップする。
  3. 構成の作成: 事実部分を中心にして論理を組み立てる。
  4. ガードレール: 情報が不足している、または断定できない部分については、「ここから先は諸説ある」などと明記し、無理に断定しない。

最終的な出力は、初心者にもわかるように「結論 → 理由 → 具体例」の順で提示してください。

ステップ3:具体的な質問を投げる

質問: 2010年代のバルセロナが採用していた“ポジショナルプレー”は、どのような意図と原則に基づいていたのか?

このように「プロセス(考え方)→ 出力フォーマット(書き方)→ 質問(内容)」の順で設計することで、初めてAIは「Reasoning」を行う準備が整います。

「嘘つきAI」と付き合うための最低ライン

もちろん、ここまで設計しても現在のLLM(大規模言語モデル)は完璧ではありません。だからこそ、以下の2点を「最低ライン」として意識する必要があります。

  • 「わからない」と言える環境を作る 推測を禁止するだけでなく、「不明確な部分をそのまま『不明』と伝えるのが、ここでは正解である」とAIに認識させると、無理な穴埋めによる嘘が激減します。
  • モデルの使い分け 複雑な論理的検証が必要な場合は、通常のチャットモデルではなく、推論特化型モデル(OpenAI o1など)や、Web検索機能(Search/Browsing)が有効な状態を選ぶ必要があります。

まとめ

今回のXでのやりとりで本当に問題だったのは、「AIが嘘をつくこと」そのものではなく、「Reasoning(思考プロセス)を設計しないまま、Expert(専門家の姿勢)だけを要求していたこと」です。

「あなたは専門家として正確に答えろ」という精神論から脱却し、「この目的のために、この手順で考えてから答えろ」という設計論へ。

「Reasoningは?」と聞かれたときに、「プロセスまで含めて設計しているよ」と言える状態を目指しましょう。それが、AIを実用的なパートナーにするための第一歩です。

コメントを残す