一般的な浮世絵はどのような形で作られているんだろうか?

一般的な浮世絵はどのような形で作られているんだろうか?

一般的な浮世絵、特に江戸時代に花開いた多色刷りの木版画「錦絵(にしきえ)」は、一人の天才がすべてを作り上げるものではなく、高度な専門技術を持つ職人たちによる共同作業によって生み出されていました。

その制作システムは、主に4つの役割分担で成り立っており、「浮世絵の四者」と呼ばれます。

浮世絵制作を支える四つの役割

  1. 版元(はんもと):企画・販売を担うプロデューサー
    • 現代の出版社やレコード会社に近い存在です。
    • 時代の流行や人々の好みを読み取り、「今、何が売れるか」を考え、役者絵、美人画、名所絵といったテーマを企画します。
    • 絵師や職人たちに仕事を依頼し、制作資金を提供し、完成した作品を販売するまでの全責任を負う、プロジェクトの総監督です。蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)などが有名な版元として知られています。
  2. 絵師(えし):デザインを描くアーティスト
    • 版元からの依頼を受け、浮世絵の原画となる「版下絵(はんしたえ)」を描きます。これは墨の線だけで描かれたモノクロの線画です。
    • 葛飾北斎、歌川広重、喜多川歌麿など、私たちがよく知る浮世絵師の名前は、この絵師のものです。
    • 最終的な色使いの指定なども行い、作品の芸術性を決定づける重要な役割です。
  3. 彫師(ほりし):版木を彫る精密技術の職人
    • 絵師が描いた版下絵を、版木(主に硬い山桜の木が使われる)に裏返しに貼り付け、線の部分だけを残して周りを彫刻刀で彫り抜いていきます。
    • 最初に作られる輪郭線の版を「主版(おもはん)」と呼びます。
    • 多色刷りの場合は、色の数だけ版木が必要です。絵師の指定に従い、色ごとに別の版木を寸分違わず彫り上げます。この技術の精度が、完成時の美しさを大きく左右します。
  4. 摺師(すりし):和紙に摺り上げる色彩の魔術師
    • 彫師が完成させた版木を使い、和紙に一枚一枚手作業で色を摺り重ねていく職人です。
    • 絵師が指定した色を絵の具で作り、版木に均一に塗り、湿らせた和紙を乗せ、「馬連(ばれん)」という道具で圧力をかけて摺ります。
    • 色がずれないように、各版木と和紙の位置を合わせるための目印「見当(けんとう)」を使って、一色ずつ丁寧に摺り重ねていきます。ぼかしなどの高度な技術も摺師の腕の見せ所です。

浮世絵が完成するまでの流れ

  1. 企画:版元が作品のテーマや絵師を決定します。
  2. 版下絵の制作:絵師が墨で輪郭線だけの原画を描きます。
  3. 主版の彫り:彫師が版下絵を元に、輪郭線となる「主版」を彫ります。
  4. 校合摺り(きょうごうずり):主版から数枚、試し摺りを行います。
  5. 色指定:絵師が校合摺りの上に、どの部分に何色を使うかを筆で直接指示します。
  6. 色版の彫り:彫師は色指定に従い、色の数だけ「色版(いろはん)」を彫ります。この時、色がずれないための「見当」も彫り込まれます。
  7. 摺り:摺師が、まず主版で輪郭線を摺り、その後、見当に合わせて色版を薄い色から濃い色の順に一色ずつ摺り重ねていきます。
  8. 完成:すべての色が摺り上がり、美しい多色刷りの浮世絵が完成します。

このように、浮世絵は各分野のプロフェッショナルによる分業制によって、高品質な作品を大量生産することを可能にした、江戸時代の洗練されたメディア・アートだったのです。

サイズにルールはあったのかな?

はい、ありました。
浮世絵のサイズには、非常に明確なルールと規格が存在しました。

無作為に作られていたわけではなく、「大奉書(おおぼうしょ)」と呼ばれる、当時公文書などにも使われた手漉きの高級和紙を基本の単位として、それをどのように裁断するかでサイズが決まっていました。これにより、紙の無駄をなくし、効率的な大量生産を可能にしていました。

基本となる大奉書紙のサイズは、およそ 39 cm×53 cm です。


主な浮世絵のサイズ規格

ここから代表的な規格をいくつかご紹介します。

  1. 大判(おおばん)
    • サイズ: 約 39 cm×26.5 cm
    • 作り方: 大奉書を縦半分に断裁したものです。
    • 特徴: 浮世絵の中で最も一般的で広く使われたサイズです。風景画、美人画、役者絵など、あらゆるジャンルの作品で見られます。葛飾北斎の『冨嶽三十六景』や歌川広重の『東海道五十三次』も、この大判サイズです。
  2. 中判(ちゅうばん)
    • サイズ: 約 26.5 cm×19.5 cm
    • 作り方: 大奉書を四つ切りにしたものです。(大判の半分)
    • 特徴: 大判より一回り小さく、手頃なサイズ感から、役者絵や古典物語をテーマにした絵などでよく用いられました。
  3. 間判(あいばん)
    • サイズ: 約 34 cm×22.5 cm
    • 作り方: 大判と中判の中間のサイズです。
    • 特徴: 武者絵や花鳥画などに使われることがありました。
  4. 細判(ほそばん)
    • サイズ: 約 33 cm×15 cm
    • 作り方: 大奉書を縦に細長く断裁して作られます。
    • 特徴: 縦長の形状を活かして、主に役者の全身立ち姿を描くのに用いられました。特に初期の役者絵に多い形式です。

特殊な形式

上記の基本サイズ以外にも、表現方法に合わせて特殊なフォーマットも存在しました。

  • 柱絵(はしらえ)
    • サイズ: 約 70 cm×12 cm 前後
    • 特徴: 家の柱に飾ることを想定した、極端に縦長のサイズです。その特殊な画面を活かしたユニークな構図の作品が多くあります。
  • 三枚続(さんまいつづき) / 続絵(つづきえ)
    • 特徴: 大判を2枚、3枚、あるいはそれ以上横に繋げて、一つの壮大なパノラマ画面を作り出す形式です。合戦の様子や祭りの風景、大勢の人物が登場する場面などを描くのに使われ、迫力のある大画面を構成しました。

このように、浮世絵は定められた紙の規格を最大限に活用し、その中で絵師たちが構図の工夫を凝らして多様な作品を生み出していたのです。

大判(おおばん)を現代で考えるとこんな比率になります

39 cm × 53 cmを現代の規格に当てはめると、以下のようになります。

1. 比率(アスペクト比)で言うと

まず比率を計算すると、53 : 39 となります。

これを分かりやすい比に直すと、およそ 1.36 : 1 です。

現代の一般的な比率と比較すると、4 : 3(約1.33 : 1) に非常に近いです。

  • 4 : 3 は、少し前のテレビ(ブラウン管)やPCモニター、iPadの画面、一部のデジタルカメラの写真などで使われている比率です。

ですので、アスペクト比で言うと「昔のテレビやiPadの画面に近い比率」とイメージするのが最も分かりやすいです。

2. 紙のサイズ(寸法)で言うと

現代のJIS規格の紙のサイズで、寸法が近いのは B3サイズ(36.4 cm × 51.5 cm) です。

短辺長辺
大奉書39 cm53 cm
B3サイズ36.4 cm51.5 cm

ご覧の通り、寸法がかなり近いことがわかります。B3サイズは、電車の中吊り広告や新聞の折込チラシなどで使われる大きさです。

まとめ

  • 画面比率で言えば → 4 : 3 (昔のテレビやiPadの画面)
  • 紙の大きさで言えば → B3サイズ (電車の中吊り広告など)

が、最も近い現代の規格と言えます。

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