ダルビッシュ有さんは右投げの投手です。
それなのに、左で投げても普通に速い。
すごいのは「左腕が強い」だけではありません。
投球の流れを、体全体でわかっているところです。
MLB公式プロフィールでも、ダルビッシュ有さんは B/T: R/R。つまり右打ち右投げです。
その一方で、本人紹介欄には「バランスを助けるため、ウォームアップで左投げをすることがある」「左で82mphを投げられると話している」とあります。
82mphは約132km/hです。
ダルビッシュ有さんの左投げ動画
まずはこの動画です。
右投げのメジャーリーガーが、左でここまでスムーズに投げる。
それだけでかなり変です。
しかも、ただ腕を振っている感じではありません。
足を上げる。体を前へ運ぶ。胸を残す。最後に腕が出る。
投手の動きとして、ちゃんと流れがあります。
以前の左投げでは113km/hが出ていた
以前の動画では、左投げで113km/hが出ていたと紹介されています。
113km/hでも十分すごいです。
草野球なら、左投げとして普通に速い部類です。
ただ、MLB公式プロフィールにある82mphの話まで合わせると、左で約132km/h級を投げられる可能性がある。
これはもう「器用ですね」の範囲を超えています。
左でも速い理由は、投球が腕だけの動きではないから
野球の投球は、腕だけで投げていません。
足で地面を押す。
骨盤が回る。
胸が遅れて回る。
肩、肘、手首、指先へ力が伝わる。
Sports Healthの論文「The Kinetic Chain in Overhand Pitching」では、投球動作は全身の筋肉が協調する動きだと説明されています。
下半身から体幹、上半身へ力をつなぐ「キネティックチェーン」が大事になります。
だから、右で超一流の投手は、左でもゼロから始める人とは違います。
腕は左でも、下半身の使い方、体幹の回し方、リリースまでの順番を知っているからです。
右で覚えた動きが左にも少し移る
もうひとつ面白いのは、左右の学習です。
片側で覚えた力や動きが、反対側にも一部移る現象があります。
スポーツ科学では「クロスエデュケーション」や「両側転移」と呼ばれる考え方です。
右で何千回、何万回と投げてきた人は、投げる時に何をすればボールが走るかを体で知っています。
左で投げても、その設計図の一部は使える。
もちろん、左投手として試合で投げられるという意味ではありません。
制球、変化球、疲労、打者との勝負は別物です。
でも、短い距離で強く投げるだけなら、右で積み上げた感覚がかなり効いているはずです。
ダルビッシュ有さんの場合は球種の理解も異常に深い
ダルビッシュ有さんは、球種への理解がものすごく深い投手です。
MLB公式プロフィールでは、本人が11種類の球種を投げると紹介されています。
フォーシーム、ツーシーム、カッター、スライダー、カーブ、チェンジアップ、スプリット、スプリームなどです。
球種を多く持っているということは、ただ速く投げるだけではありません。
指先、手首、腕の角度、体の開き、回転のかけ方を細かく分けて使えるということです。
左投げでも形がきれいに見えるのは、この「投げる動作の分解能力」が高いからだと思います。
だから左投げ動画はただのネタなのに見入ってしまう
この動画の面白さは、左投げで速いことだけではありません。
右投げの天才が、逆の手で投げても投手っぽさが消えない。
そこが気持ちいい。
普通の人が利き手と逆で投げると、腕だけで押す感じになります。
ダルビッシュ有さんの場合は、左でも体の順番が残っています。
だから「なんで左でそんなに投げられるの?」となる。
答えはたぶん、右腕の才能だけではなく、投球そのものを深く理解しているからです。