中村玉緒さんをすごいと思ったのは、テレビの現場で同じボケを同じ空気のまま再現したのを見た時だった。
高校生のころ、さんまさんの『からくりテレビ』の撮影を見たことがある。
場所は新宿のタワーレコードだったと思う。
その時、中村玉緒さんはいつものように言い間違いをしていた。
ぼくはそれを見て、「やっぱり天然なんだな」と思っていた。
ところが、なにかトラブルがあったのか、撮影が撮り直しになった。

同じボケを同じ間で再現した
撮り直しになったあと、玉緒さんはさっきとまるきり同じボケをした。
同じ言い間違い。
同じ間。
同じ空気。
それを見て、びっくりした。
さっきのボケと同じことをしている。
しかも、偶然ではなく、ちゃんと再現しているように見えた。
天然だと思っていたものが、実は全部、演技だったのかもしれない。
そのあと玉緒さんは、ひとこと言った。
「これがテレビです」
会場の空気ごと、そのひとことが刺さった。
「たまお」と聞くと玉緒さんが浮かぶようになった
その後、「たまお」と聞くと、ぼくの中ではまず中村玉緒さんが浮かぶようになった。
話は、また高校生の夏に戻る。
当時、ぼくは金子ジムというボクシングジムに通っていた。
夏合宿の真っ最中で、体はかなり疲れ切っていた。

たぶん、その時期の写真だと思う。
そんな時、誰かが言った。
「今日、撮影で佐藤珠緒が来てるらしいよ」
でも、ぼくの頭の中では「たまお」といえば中村玉緒さんだった。
疲れ切った夏合宿。
金子ジム。
「たまおが来てる」という情報。
ぼくは完全に中村玉緒さんだと勘違いした。
だから、見に行かなかった。
あああああ。
テレビの人は画面の外でもテレビだった
中村玉緒さんの「これがテレビです」という言葉は、今でも妙に覚えている。
テレビで見ている天然さ。
現場で見た再現力。
それをさらっと言葉にしてしまう強さ。
あの時、ぼくは「テレビの人って、画面の外でもテレビなんだな」と思った。
そしてたぶん、それ以来ずっと「たまお」という音に弱い。