AIをうまく使いたいなら、依頼の最初に「これは何のための作業か」を入れてください。
「これを直して」だけでは、AIは一般的によさそうな答えを出すしかありません。目的、相手、困っていること、完成条件まで渡すと、AIは今の仕事に合う判断ができます。
この記事では、Anthropicが約40万件のClaude Codeセッションを分析した調査をもとに、今日から使える依頼の型を紹介します。
AIへの依頼は「作業名」より「目的」から始める
AIに頼むとき、多くの人は作業名から始めます。
- 翻訳して
- 要約して
- 修正して
- コードを書いて
- 画像を作って
これでもAIは動きます。ただし、大事な判断材料がありません。
- 何のために直すのか
- 誰に向けてわかりやすくするのか
- どんな印象にしたいのか
- 何を避けたいのか
- どこまで変えてよいのか
この情報がなければ、AIは無難な答えを選びます。仕事で必要なのは、一般的な正解ではありません。今の目的に合う答えです。
人間が「何をするか」を決め、AIが「どう実行するか」を決めていた
Anthropicは2026年6月、Claude Codeの使われ方を調べたレポート「Agentic coding and persistent returns to expertise」を公開しました。
分析対象は、2025年10月から2026年4月までの約40万セッション、約23万5,000人分です。
典型的なセッションでは、人間が計画に関する判断の約70%を担い、Claudeが実行に関する判断の約80%を担っていました。
つまり、人間が「何を作るか」を決め、AIが「どう作るか」を決めています。
人間が方向を示す。AIが手を動かす。この役割分担が、AIを仕事の相棒にする基本です。
専門性が高い人ほど、1回の指示でAIが多く動いた
同じ調査では、その作業に詳しい人ほど、1回の指示からClaudeが多くの作業を進めていました。
初心者と判定されたセッションでは、1回の指示あたり約5アクション、出力は約600語でした。専門家と判定されたセッションでは約12アクション、約3,200語です。
ここでいう専門性は、肩書やプログラミング歴ではありません。その仕事に対して、次の情報をどれだけ的確に示せるかです。
- 問題をどれだけ正確に説明できるか
- 何を確認すべきか示せるか
- AIの間違いを見つけて修正できるか
専門家は、AIに細かい手順を一つずつ命令しているとは限りません。AIが判断できる材料を渡しています。
5秒でできる工夫は「何のためか」を一文足すこと
難しいプロンプト術から始める必要はありません。依頼の前に、目的を一文だけ足します。
変更前
この文章を直して。
変更後
お客さんに安心して予約してもらうために、この文章を直して。
変更前
この記事を要約して。
変更後
忙しい人が3分で内容を理解できるように、この記事を要約して。
変更前
LPを改善して。
変更後
予約率を上げたい。初めて見る人の不安を減らす方向でLPを改善して。
同じ作業でも目的が違えば、正解も変わります。
「翻訳して」だけでも、海外のお客様に安心してもらう翻訳と、SNSで自然に見せる翻訳では言葉選びが変わります。ホテルのFAQなら誤解を防ぐ正確さが必要です。広告なら短さと印象が優先されます。
そのまま使えるAI依頼の5項目
まずは、次の5つを渡せば十分です。
- 目的: 何を実現したいか
- 誰に: 誰が読む、見る、使うのか
- 今の問題: 何に困っているか
- やってほしいこと: AIに任せる作業
- 完成条件: 何を満たせば終わりか
文章を直すなら、こう書けます。
- 目的: お客さんに安心して予約してもらいたい。
- 誰に: 北海道旅行を考えている家族。
- 今の問題: 不安をあおりすぎて、広告っぽく見える。
- やってほしいこと: 自然で信頼感のある文章に直す。
- 完成条件: 大げさな表現を使わず、安心感が伝わる。
大事なのは、長い指示を書くことではありません。AIが迷いそうな判断を、先に渡すことです。
AIに「何を優先するか」を渡す
AIは手を動かすことが得意です。
文章を書く。コードを書く。翻訳する。要約する。比較する。表にする。案を出す。
一方で、「何を優先するか」は目的によって変わります。
- 売上
- 安心感
- わかりやすさ
- 高級感
- スピード
- 正確性
全部を同時に最大化できるとは限りません。今回の仕事で何を勝ちたいのか。そこまで伝えると、AIは単なる作業者ではなく、判断できる相棒になります。
AIがズレたときは「何が違うか」を返す
AIを使うのがうまい人は、最初から完璧な指示を作れる人ではありません。出てきた答えに対して、違いを言葉にできる人です。
たとえば、次のように返します。
「方向性はいい。ただ、少し売り込み感が強い。もっと旅行者目線にして」
「内容は合っている。でも見出しが弱い。続きを読みたくなる見出しを3案出して」
「文章はきれい。でも現場感がない。実際にお客さんが不安に思う言葉に寄せて」
Anthropicの調査でも、その作業に詳しい人ほど成功率が高い傾向がありました。
厳しい基準で確認できた成功率は、初心者セッションが15%、中級以上が28〜33%でした。部分的な成功まで含めると、初心者は77%、中級以上は91〜92%です。
途中で問題が起きたセッションでも、専門性が高い人ほど立て直しやすい傾向がありました。専門知識は、AIが間違えたときのハンドルにもなります。
AI時代は「コードを書ける人」だけが有利ではない
この調査はClaude Codeが対象です。ただし、結果はエンジニアだけの話ではありません。
コードを作ったセッションで、部分的な成功まで含めた割合は、ソフトウェア系職種が89%、それ以外の職種が88%でした。
自分の仕事を理解している人。お客さんの悩みを知っている人。現場の制約を知っている人。優先順位を決められる人。
こうした人は、コードが専門でなくてもAIを使って技術的な仕事を進められる可能性があります。
ただし、この調査には限界もあります。成功はセッション記録から分類したもので、作ったコードが実際に事業で使われたかまでは確認していません。Anthropic自身も、結果は初期的なものだと説明しています。
AIは人間の目的意識と現場理解を増幅する
AIへの依頼は、作業名から始めない。目的から始める。
- 予約率を上げたいので、これを直して。
- 忙しい人がすぐ理解できるように、要約して。
- 不安を減らしつつ、信頼感が出るように整えて。
Claude Codeのデータが示しているのは、AIが人間の専門性を不要にする未来ではありません。人間が持つ目的意識や現場理解を、AIが増幅する可能性です。
AIに丸投げする力ではなく、AIに勝ち筋を渡す力が大切になります。
依頼する前に5秒だけ考えてください。
「これは、何のためにやる作業なのか?」
その一文が、AIの答えを変えます。












